悪代官と越後屋の密談「ジャニーズスキャンダル」

梅雨明け間近の蒸し暑い夜、黒沼玄蕃の屋敷は、普段にも増して重苦しい空気に包まれていた。障子の向こうから聞こえる虫の声も、今宵はどこか物悲しい。上座に胡座をかいた黒沼玄蕃は、不機嫌そうに扇子をあおぎ、目の前に控える越後屋宗右衛門を睨みつけた。

「越後屋、今日の市の様子は如何であった?庶民どもは相変わらず、日々の糧を稼ぐことに汲々としているか?」

「は、お代官様におかせられましては、ご案じ召されますな。市は相変わらず活気に満ち、下賤の者どもも、汗水垂らして銭を稼ぐことに精を出しておりまする。これも偏に、お代官様の日頃のご采配の賜物と、皆が皆、頭を垂れておりまする。」

越後屋は、額に脂汗を滲ませながら、深々と頭を下げる。その口から出るのは、毎度おなじみの耳触りの良い言葉ばかりだ。玄蕃は鼻を鳴らした。

「ふん、相変わらず口の上手いことよ。だがな、越後屋。近頃、わしはどうにも胸騒ぎがしてならぬのだ。この国全体を覆う、得体の知れぬざわめき。庶民どもの目に宿る、奇妙な光。何かが、変わろうとしているのではないかと…」

玄蕃は扇子を閉じ、膝の上に置いた。その視線は、越後屋の奥、闇の中に何かを探るようだった。越後屋は恐る恐る顔を上げた。

「恐れながら、お代官様。何か、ご懸念でもおありでございましょうか?もしや、反乱の兆しでも…?」

「いや、違う。反乱などという生易しいものではない。もっと根深い、人の心の奥底に巣食うものが蠢いているような…そんな漠然とした不安よ。」

玄蕃は首を振った。その表情は、いつになく真剣である。越後屋はごくりと唾を飲み込んだ。お代官様がここまで思い詰めることなど、滅多にない。

「して、お代官様。具体的に何が、お気に召しませんので?」

「うむ。実はな、越後屋。近頃、わしは市井の者どもが興じているという、奇妙な話を聞いた。何でも『じゃにーず』とか申す、若い男どもが歌い舞う催しがあるとか。それが、どうにも国民の心を鷲掴みにしているというではないか。」

玄蕃の言葉に、越後屋はハッとした。まさに今、世間を騒がせているあの話ではないか。

「ははあ、さては『じゃにーず』の件でございますな。お代官様、さすがは耳が早い。あれは今、老若男女問わず、誰もが夢中になっているとか。歌い踊る若衆の姿に、娘どもは黄色い声を上げ、男どもも、その華やかさに目を奪われていると聞きます。」

越後屋は、ここぞとばかりに情報を披露しようとしたが、玄蕃はぴしゃりと遮った。

「その『じゃにーず』とやらが、今や世を騒がす大騒動になっているではないか。何でも、その組織の長が、若い衆に手を出すという、常軌を逸した行いをしていたとか…。」

玄蕃の言葉に、越後屋は途端に顔色を失った。そう、玄蕃が気にしているのは、まさにその「スキャンダル」のことだった。

「は、ははあ…その件でございますか。誠に、世を騒がせておりまする。あの華やかな世界に、そのような裏があったとは…」

越後屋は言葉を濁した。この件は、下手に口を出すと火傷しかねない。

「越後屋、そちも知っておったか。儂はな、この話を聞いて、どうにも腑に落ちぬのだ。なぜ、これほどの大事が、今になって白日の下に晒されたのか。そして、なぜ今、これほどまで騒ぎが大きくなっているのか、と。」

玄蕃は疑わしげな目を越後屋に向けた。越後屋は冷や汗が背中を伝うのを感じた。

「お代官様、それは…世間の耳目が集まり、隠しきれなくなったと申しましょうか…」

「否、違う。そうではない。何か、もっと深き理由があるはずだ。越後屋、そちはこの件について、何か腑に落ちぬことはないか?」

玄蕃の鋭い問いに、越後屋はたじろいだ。正直なところ、越後屋もまた、この騒動には疑問を感じていた。だが、それを迂闊に口にすることはできない。

「お、恐れながら…お代官様のおっしゃる通り、拙者も少々、疑問に思う点が無いではございませぬ。」

越後屋は意を決して口を開いた。

「申してみよ、越後屋。」

玄蕃は顎を撫でながら、越後屋の言葉を促した。

「は。まず、これほど長きにわたり、かの組織の長が行ってきたという悪行が、なぜ今まで明るみに出なかったのか。これだけ多くの者が関わりながら、誰もが口を閉ざしてきたとは、いささか不自然に思えまする。」

越後屋は、あたりを憚るように声を潜めて言った。

「うむ、その通りだ。庶民どもは、些細なことでも噂にし、あっという間に広めるもの。それが、これほどの悪事となれば、隠し通せるはずがない。」

玄蕃は越後屋の言葉に頷いた。

「そして、もう一点。なぜ、この時期に、これほど大々的に報じられているのか。これまでにも、幾度か似たような噂は囁かれていたと聞きますが、これほどまでに世論が沸騰することはございませんでした。」

越後屋は、玄蕃の顔色を窺いながら続けた。

「ほう、そちはなかなか鋭い目をしているな、越後屋。わしもそこが気になっていたのだ。まるで、誰かが意図的に、この火種を大きくしているかのようではないか。」

玄蕃は、目を細めて遠くを見つめるように言った。その目は、闇の奥に隠された真実を見透かそうとしているようだった。

「お代官様のおっしゃる通りにございます。拙者も、この騒動の裏に、何らかの意図を感じざるを得ません。」

越後屋は、玄蕃の言葉に勇気づけられ、さらに踏み込んだ。

「では、一体誰が、何を企んでおると考える?」

玄蕃は、越後屋に問いかけた。その目は、答えを求めるように鋭い。

「は、それは…」

越後屋は言葉を選んだ。このような場所で迂闊なことを口走れば、命取りになりかねない。

「臆することはない、越後屋。この場に、他に聞く者はおらぬ。そちの考えを聞かせよ。」

玄蕃の言葉に、越後屋は意を決した。

「恐れながら申し上げまする。この騒動の背後には、かの組織を潰そうとする、何者かの陰謀が働いているのではないかと…。」

越後屋は、顔を青くしながらも、はっきりとそう言った。

「陰謀、とな?」

玄蕃の目が、ギラリと光った。

「は。かの組織は、これまで芸能界において、絶大な権力を握ってまいりました。それはまるで、お代官様がこの藩を支配されているように…」

越後屋は、言いかけて口をつぐんだ。お代官様を引き合いに出すとは、失言である。

「続きを申せ、越後屋。咎めはせぬ。」

玄蕃は、面白そうに越後屋を見ていた。

「は。かの組織が持つ力は、あまりにも強大でございました。ゆえに、それに嫉妬し、あるいはその力を恐れる者たちが、これまでも多くいたかと存じます。そして今、その者たちが結託し、かの組織を失墜させようと企んでいるのではないかと…」

越後屋は、震える声でそう語った。

「なるほど…敵対勢力による、かの組織の排除。いかにもありそうな話だ。では、具体的に誰が、その陰謀の中心にいると考える?」

玄蕃は、さらに深く問い詰めた。

「は…それは、拙者ごときが口にするには、あまりにも恐れ多いことでございますが…」

越後屋は、一度は言葉を詰まらせたが、玄蕃の視線に促され、小声で続けた。

「噂ではございますが、近年、急速に勢力を拡大している、某芸能事務所や、あるいは、かの組織の潤沢な資金源を狙う、巨大な外資系企業が関与しているのではないかと…」

「外資系企業、とな?」

玄蕃は眉をひそめた。この国の経済にも、得体の知れぬ外国の影が忍び寄っているという話は、かねがね耳にしていた。

「は。かの組織は、多くの若者を抱え、莫大な利潤を生み出しておりました。その利権を、虎視眈々と狙っていた者がいたとしても、何ら不思議ではございません。」

越後屋は、さらに続けた。

「そして、そのような巨大な資本を持つ者たちが、かの組織の抱える弱点、すなわち、長年の悪行を暴き立てることで、世論を味方につけ、組織を解体しようとしているのではないかと…」

「つまり、かの組織の過去の悪事を、情報操作の道具として利用している、と申すか?」

玄蕃は、越後屋の言葉を反芻するように言った。

「その通りにございます、お代官様。これまでにも、世論を操作し、特定の個人や組織を陥れるという手口は、幾度となく行われてまいりました。今回の件も、その一環である可能性は、十分にございます。」

越後屋は、確信めいた口調で言った。玄蕃は腕を組み、深く考え込んだ。越後屋の言葉には、確かに一理ある。この世の裏側には、常に利権と陰謀が渦巻いていることを、玄蕃はよく知っていた。

「では、そのようにして、かの組織が潰れたとして、一体誰が得をするのだ?」

玄蕃は、核心を突く質問を投げかけた。

「は。まず、かの組織がこれまで独占してきた芸能界の利権を、他の芸能事務所が分け合うことになりまする。特に、これまで日の目を浴びてこなかった若手事務所には、大きな好機となるでしょう。」

越後屋は、淀みなく答えた。

「なるほど、市場の再分配というわけか。それは、いかにもありそうな話だ。では、外資系企業とやらが関わっているとすれば、彼らは何を狙っている?」

「は。彼らは、かの組織が保有していた、膨大なコンテンツや肖像権、そして莫大なファン層を狙っているものと存じまする。それらを買い取り、自らのビジネスの肥やしにしようと企んでいるかと…」

越後屋は、顔をしかめて言った。

「ふむ、金の匂いがプンプンする話だな。つまり、彼らはかの組織の解体後を見越して、すでに水面下で動き出している、と申すわけか。」

玄蕃は、冷笑を浮かべた。

「その通りにございます。お代官様。そして、もう一つ、考えられるのは、この騒動を利用して、国の政治に影響を与えようとしている勢力がある、ということでございます。」

越後屋の言葉に、玄蕃の眉がぴくりと動いた。

「何?政治にまで関わると申すか?」

「は。かの組織は、長年にわたり、政治家や財界人とも密接な関係を築いてきたと聞きまする。その関係性を断ち切ることで、特定の勢力が、国の舵取りを自分たちの都合の良いように動かそうとしている可能性もございまする。」

越後屋は、さらに踏み込んだ。

「つまり、この『じゃにーず』の騒動は、単なる芸能界のゴタゴタではなく、より大きな権力闘争の一端である、と申すか。」

玄蕃は、深く頷いた。越後屋の言葉は、玄蕃の疑念をさらに深めるものだった。

「その通りにございます、お代官様。世の中の出来事は、決して単独で起こるものではございませぬ。常に、その裏には複雑な思惑が絡み合っておりまする。」

越後屋は、玄蕃の顔色を窺いながら、得意げに言った。

「越後屋、そちはなかなか侮れぬ男よな。金儲けのことばかり考えているかと思いきや、世の裏側まで見通す目を持っているとは。」

玄蕃は、感心したように越後屋を見た。越後屋は、恐縮しながらも、内心では得意満面だった。

「もったいのうございます、お代官様。これも偏に、日頃お代官様からご教授いただいておりまする、世の道理のおかげでございます。」

越後屋は、すかさずおべっかを使った。

「ふん。だがな、越後屋。もしそちの言う通り、この騒動が仕組まれたものであったとしても、かの組織の長が行ったとされる悪行は、紛れもない事実であろう?」

玄蕃は、顔から笑みを消し、厳しい表情で言った。

「は…それは、誠に痛ましいことでございます。いかに陰謀が絡んでいるとはいえ、罪を犯した者が罰せられるのは、当然のことでございます。」

越後屋は、神妙な面持ちで答えた。

「うむ。それが世の道理というものだ。しかし、今回の件で、わしが一番懸念しているのは、世の民の心なのだ。」

玄蕃は、再び扇子をあおぎ始めた。

「と申しますと?」

越後屋は首を傾げた。

「かの組織の長が犯した罪は、確かに重い。だが、それによって、今まで彼らを信じ、応援してきた多くの民が、深く傷ついている。彼らが抱いていた夢や希望が、根底から覆されたのだ。これは、心の深い部分にまで及ぶ、大きな衝撃となるであろう。」

玄蕃の声には、どこか悲痛な響きがあった。

「は…確かに、多くの者が、かの組織の崩壊に心を痛めていると聞きまする。」

越後屋は、玄蕃の言葉に同意した。

「そして、その傷ついた心が、やがて不信や憎しみに変わっていくのではないかと、わしは危惧しているのだ。それは、この国の根幹を揺るがしかねない、恐るべき力となる。」

玄蕃は、扇子をぴたりと閉じた。その目は、何か恐ろしい未来を見据えているようだった。

「お代官様…」

越後屋は、玄蕃の言葉に言葉を失った。

「世の民は、常に何かを信じ、拠り所とすることで、日々を生きている。それが、例え虚像であったとしても、その虚像が崩れ去った時、彼らは何にすがりつけば良いのだ?信じるものを失った民は、やがて何にでも飛びつき、容易に扇動される存在となりかねぬ。」

玄蕃の言葉は、重く響いた。

「では、お代官様。我々はどうすればよろしいのでございましょうか?この荒れ狂う世を、いかにして乗り越えれば…」

越後屋は、玄蕃に助けを求めるように問いかけた。

「越後屋、我々のような者が、世の趨勢を大きく変えることはできぬ。だが、我々にできることはある。それは、この目で世の動きをしっかりと見極め、来るべき時に備えることだ。」

玄蕃は、静かに言った。

「来るべき時、でございますか?」

「うむ。このような大騒動の後に続くのは、必ずや大きな変化だ。世の価値観が揺らぎ、新たな秩序が生まれようとする時、我々はその機を逃してはならぬ。」

玄蕃の目は、再びギラリと光った。それは、この乱世を、自らの利とするための、悪代官らしい欲望の光だった。

「お代官様のおっしゃる通りにございます。乱世は、悪徳商人にとりまして、まさに好機と申せましょう!」

越後屋は、玄蕃の言葉に、にわかに顔を輝かせた。

「ふん、越後屋。そちは相変わらず、銭のことばかりだな。だが、それで良い。それぞれの立場で、この乱世を生き抜く術を見つけるのだ。」

玄蕃は、越後屋をちらりと見やり、再び扇子をあおぎ始めた。窓の外では、虫の音が、相変わらず物悲しく響いている。だが、その音は、もはや玄蕃の耳には届いていなかった。彼の頭の中では、来るべき時代の変化と、それに伴う新たな利権の構図が、複雑に絡み合い始めていた。

「して、越後屋。その『じゃにーず』とやらの件、今後も逐一、わしに報告せよ。特に、世の民の動き、そして、その裏で蠢く影の動きを、決して見落とすでないぞ。」

玄蕃の言葉に、越後屋は深々と頭を下げた。

「はっ!お代官様のご期待に沿えるよう、越後屋宗右衛門、この身を賭して情報収集に努めまする!」

越後屋の声が、屋敷の静寂の中に響き渡った。この夜、黒沼玄蕃と越後屋宗右衛門は、現代社会を揺るがす「ジャニーズスキャンダル」という名の大きな波を、己の利益に変えるための新たな企みを胸に抱いたのだった。そして、この悪代官と悪徳商人の陰謀論的視点は、現代社会の裏側で蠢く様々な思惑を、図らずも映し出しているかのようであった。

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