悪代官と越後屋が語る「ガンダムの世界観」

闇夜に浮かぶは、月。黒沼邸の奥座敷には、分厚い絹の帳が下ろされ、ぼんやりと灯る行燈の光が、悪代官・黒沼玄蕃の油でてらてらと光る額を照らしていた。向かいに座るのは、越後屋宗右衛門。今日の儲け話に満足げな笑みを浮かべ、盆に載せられた饅頭に手を伸ばそうとしている。
「越後屋、今日の儲けは上々であったな。そちの働き、まことに天晴れじゃ。」
玄蕃の言葉に、越後屋は深々と頭を下げた。
「もったいのうございます、お代官様。すべては、お代官様のご威光あってこそ。この越後屋めなど、ただ微力ながらお手伝いさせていただいただけにございます。」
へつらいの言葉に、玄蕃は満足げに頷く。湯呑みに注がれた熱い茶を啜り、ふと、玄蕃は口を開いた。
「越後屋、そちは、近頃巷で流行りの『機動戦士ガンダム』というものに詳しいか?」
越後屋はきょとんとした顔で玄蕃を見上げた。
「ガンダム、でございますか? 申し訳ございません、お代官様。そのような奇妙な名、この越後屋めは存じ上げませぬが…」
「ふむ、そうか。無理もない。どうやら遠い未来の、宇宙での戦の話のようだ。しかし、これがなかなか興味深いのだ。」
玄蕃はそう言うと、顎に手を当てて考え込むような素振りを見せた。越後屋は、お代官様の珍しい話題に戸惑いつつも、耳を傾ける。
「地球連邦軍とやらと、ジオン公国という軍勢が争っておる。連邦は地球に住まう人々、ジオンは宇宙に移り住んだ人々が中心となっておるらしい。どちらも自らの正義を掲げ、激しく戦っておる。越後屋、そちは、この二つの勢力、どちらが正義だと見える?」
玄蕃の問いに、越後屋は困惑の表情を浮かべた。
「正義、でございますか? この越後屋めには、難しゅうございます。およそ戦というものは、勝てば官軍、負ければ賊軍。勝った方が正義となるのでは…」
「ふん、そのとおりだ。世の中、大抵はそのようにできておる。しかしな、このガンダムとやらの話は、どうにも一筋縄ではいかぬ。地球連邦軍は、地球の環境破壊を防ぐために、人々を宇宙に移住させようとしたという。そのために、宇宙への強制移住や、人々の自由を制限するような政策も行ったと聞く。そして、その連邦政府の圧政に反発し、宇宙に移住した人々の中から独立を求めるジオンが生まれた。ジオンは、宇宙に住まう者たちの権利と自由を守るために、連邦に戦いを挑んだというのだ。」
玄蕃はそこまで話すと、茶を一口飲んだ。越後屋は、相変わらず饅頭を前に固まったままだ。
「お代官様、この越後屋が見ますところ、地球連邦軍は『地球の平和を守る』と称しておりますが、実態は『全ての国を一つにまとめ、自由を奪う』グローバリストでございます。」
「……つまり、わしらのような地方の権力者を無くし、全てを中央の連中が支配しようというわけじゃな。」
「その通りでございます。彼らは『秩序』の名の下に、従わぬ者を『コロニー落とし』などで制裁を加えると聞きます。」
「『コロニー落とし』……? 何じゃそれ?」
「(恐ろしげに)……つまり、巨大な岩を空から落とし、一つの国を滅ぼすということでございます。」
「……ふん。ならば、そちが言う『ジオン』という連中は『反逆者』というわけじゃな。」
「(意味深に)……現代の世の中では、『反逆者』と呼ばれる者こそ、真の自由を求める者かもしれませんが……」
「ところで越後屋、この戦いでは『アムロ』という若者が正義の味方として戦い、『シャア』という赤い彗星が悪役として描かれておるようじゃが……」
「はい、お代官様。しかし、現代の目で見れば、話は少し違って見えるかもしれません。」
「……どういうことじゃ?」
「アムロは『地球連邦軍』の側で戦っております。つまり、『グローバル支配を強化する側』でございます。」
「……ふん。では、シャアは?」
「シャアはジオンの側で戦い、『地球連邦の腐敗を打破せよ』と叫んでおります。現代で言えば……『反グローバリスト』、あるいは『自国第一主義者』とでも申しましょうか。」
「……(意味深に)……トランプか?」
「(咳払い)……お代官様、それはあまりに直接的な表現で……」
「ふん。わしは悪代官じゃ。遠回しな表現は要らん。要するに、『ガンダム』という物語は、グローバリスト側のプロパガンダということか?」
「(苦笑)……そう言ってしまえば、それまでですが……」
「越後屋、そちはどちらにつくつもりじゃ?」
「はっ! 私はもちろん、お代官様にお仕えするだけでありまして……」
「ふん。では、わしらはどう動くべきじゃと思う?」
「(慎重に)……地球連邦軍は強大でございますが、彼らの支配が及べば、我々の利益も奪われます。一方、ジオンは……勝てば、新たな秩序を作るでしょう。」
「……つまり、わしらは『ジオン』についたほうが得策だと?」
「(にやり)……あるいは、両者を利用し、我々だけが儲ける道もございますが……」
「ふん。結局のところ、『正義』も『悪』も、金の前にはどうでもよいことじゃ。そちとわしで手を組み、こやつらから金を巻き上げてみせようではないか。」
「はっ! お代官様のお言葉、光栄に存じます!」
「ただし、わしらの取り分は八二分けじゃ。わしが八、そちが二じゃ。」
「……(渋い顔)お代官様、それでは少し……」
「……ところでな、越後屋。」
「はい?」
「もしわしらがジオン側についたら、わしは『赤い悪代官』と呼ばれるかもしれんのう。」
「(呆れつつ)……お代官様、それはシャアのパロディでございます……」
「ははは! それも悪くないじゃろう!」

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