悪代官と越後屋の密談「現代の米騒動」

「越後屋、本日の儲けは如何ほどであったか?」

黒沼玄蕃は、上座にふんぞり返り、ふくよかな腹をさすりながら、にやにやと越後屋宗右衛門に問いかけた。宗右衛門は、深々と頭を下げ、顔にはいつものへつらいの笑みを浮かべていた。

「へえ、お代官様には及びもつきませぬが、おかげさまで、本日も少々ばかり利がございました」

「そうかそうか。それでこそ越後屋よ。しかし、近頃の世情は穏やかではないな。米の騒動、そちも聞いておろう?」

玄蕃は扇子を広げ、ゆっくりと顔を隠すように仰いだ。宗右衛門は顔色一つ変えず、静かに答えた。

「ええ、もちろん聞き及んでおります。何でも、政府が備蓄米を放出したとかで、農民たちが騒いでいるとか」

「うむ。備蓄米、減反政策のあげくに積み上がった無駄飯を売るというのだからな。まさに悪政の極みよ。しかし越後屋、そちはこれを単なる政府の失策と見るか?」

玄蕃の目は、扇子の隙間から細く光った。宗右衛門は、一瞬考え込むそぶりを見せた後、膝を乗り出した。

「まさか、お代官様。わたくしどもが商いをしておりますと、世の中の裏側が見えてくるものでございます。この米騒動、どうもきな臭い匂いがいたします」

「ほう、きな臭いとは、どのような匂いじゃ?」

玄蕃は興味をそそられたように身を乗り出した。宗右衛門は、声をひそめて語り始めた。

「まず、あの減反政策でございます。長年にわたり、米の生産を抑え、農民を苦しめてきた。その結果、食料自給率は下がり、日本の食卓は外国産に頼るばかり。これだけでも、日本の国力を削ぐ意図があったとしか思えませぬ」

「うむ、確かにそうだ。わしが若い頃は、この国は米どころとして名を馳せておった。それが今や、備蓄米を売る始末。嘆かわしいことよ」

玄蕃は、深くため息をついた。

「そして、今回の備蓄米放出でございます。なぜ、このタイミングで? まるで、わざと日本の米価を暴落させ、海外の安い米を輸入しやすくするための段取りであるかのようです」

「安い米を輸入しやすく、か……。それは、誰にとって利があるのじゃ?」

玄蕃の目が、さらに鋭くなった。

「それは、お代官様、グローバリストと呼ばれる者たちでございます。彼らは国境という概念を嫌い、すべてのものを自由に、金銭の力で支配しようとする。食料も、彼らにとっては金儲けの道具でしかないのです」

「グローバリスト……。また、胡散臭い輩が出てきたものじゃな」

玄蕃は眉をひそめた。

「彼らは、減反政策を推進してきた日本の政治家たちに、巧妙に働きかけてきたのでしょう。食料自給率の低下は、彼らにとって好都合。なぜなら、日本の食料を彼らの意のままに操れるようになるからでございます」

「つまり、食料を武器に、日本を支配しようとしているとでも言うのか?」

「まさにその通りでございます。彼らは、日本の農業を弱体化させ、海外からの輸入に頼る体質を作り上げました。そして、いざとなれば、食料の供給を絞り、日本に圧力をかけることができる。今回の備蓄米放出も、その一環ではないかと、わたくしはにらんでおります」

宗右衛門は、自信ありげに言い放った。

「なるほど……。そういえば、最近、米を輸入している商社の中には、海外の巨大な穀物メジャーと提携しているところが増えたと聞く。あれも、やつらの仕業か?」

「ええ、間違いございません。彼らは、日本の商社を抱き込み、日本の食料流通の支配を目論んでおります。そして、日本の農民が苦しむ姿を見て、ほくそ笑んでいるに違いありません」

宗右衛門の言葉に、玄蕃の顔には怒りの色が浮かんだ。

「許しがたい。この国は、米によって栄えてきた国じゃ。その米を、異国の輩の好き勝手にさせるわけにはいかん!」

「お代官様のお言葉、まことにごもっともでございます。しかし、彼らの手は、すでに政治の中枢にまで伸びていると聞きます。与党の幹部の中にも、彼らから多額の献金を受け取り、彼らの意向に沿う政策を推し進めている者がいるとか」

宗右衛門は、さらに核心に迫った。

「何と……。まさか、そこまでとはな」

玄蕃は、思わず唸った。

「彼らは、政治家だけでなく、マスコミも支配しております。減反政策の弊害や、今回の備蓄米放出の真の意図について、深く報じようとはしない。まるで、国民に真実を知られないようにしているかのようです」

「確かに、テレビや新聞では、政府の言い分ばかりが報じられているな。農民たちの苦しみや、食料自給率の低下については、ほとんど触れようとしない」

玄蕃は、膝を叩いた。

「そればかりか、彼らは『フードテック』などという耳障りの良い言葉を使って、人工肉や培養肉の導入を画策していると聞きます。日本の伝統的な食文化を破壊し、彼らが管理する新たな食料システムを構築しようとしているのです」

「人工肉だと? そんなもの、米の代わりになるものか! 冗談ではない!」

玄蕃は、思わず声を荒げた。

「ええ、しかし、彼らはそれを『持続可能な社会』などと称して、国民に押し付けようとしているのです。そして、その裏には、莫大な金が動いております」

「金か……。結局は、金儲けのためか」

玄蕃は、深くため息をついた。

「左様でございます。彼らは、食料を武器に、世界を支配しようとしている。そして、日本はその手始めに過ぎないのかもしれません」

宗右衛門は、暗い表情で言った。

「ならば、我々はどうすればよいのだ? このまま、奴らの好き勝手にさせるわけにはいかん!」

玄蕃は、握りこぶしを作った。

「お代官様、わたくしどもが知れることは、ここまででございます。しかし、わたくしは信じております。この国の国民は、決して愚かではございません。いつか、彼らの真の企みに気づき、立ち上がる日が来ると」

「うむ……。そうであるな。この国の米は、この国の民が守らねばならぬ。越後屋、そちはこれからも、わしに世の裏側を教えてくれ。この黒沼玄蕃、決して奴らの企みを許しはせんぞ!」

玄蕃は、力強く宣言した。宗右衛門は、深々と頭を下げた。二人の間に、密やかな共謀の空気が漂っていた。現代の米騒動は、悪代官と越後屋の目には、単なる政府の失策ではなく、巨大な陰謀の一端として映っていた。

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