「越後屋、今日の儲けはどうじゃ?」
黒沼玄蕃は、分厚い唇をにやりと歪め、越後屋宗右衛門に目を向けた。越後屋は深々と頭を下げ、相変わらずのへりくだった態度で答える。
「へえ、お代官様のおかげでございます。今月もおかげさまで、大層な儲けが出ております。」
畳敷きの座敷には、金色の屏風が立てられ、部屋の隅には高価な焼き物が飾られている。二人の男の間に置かれた盆には、艶やかな饅頭が湯気を立てているが、彼らはそれに手を付けようとはしない。彼らの目は、常に金と権力、そしてそこから生じる愉悦を求めている。
玄蕃は扇子で膝を叩きながら、ふと、今日の昼間に耳にした奇妙な言葉を思い出した。
「越後屋、今日の市中見回りにて、まこと妙な言葉を耳にした。開票率0%で当選確実、8時当確と申すそうだが、そちは何か知っておるか?」
越後屋は一瞬、眉をひそめたが、すぐにいつもの愛想笑いを浮かべた。
「お代官様、『かいひょうりつゼロパーセントでとうせんかくじつ、はちじとうかく』と読むそうでございますな。わたくしもつい先日、京から来た商人の口から聞きかじったばかりでございます。」
「ふむ、京の商人が申すか。まことに世の中は変わるのう。して、その『開票率0%で当選確実』とやら、一体何のことじゃ?」
玄蕃は興味津々といった様子で身を乗り出した。越後屋は、まるで珍しい品物を紹介するかのように、しかし言葉を選びながら説明を始めた。
「へえ、お代官様。それは、なんでも、選挙というものにまつわることでございまして……。票を数え始める前、つまり開票率がまだ零(ゼロ)の状態なのに、もう誰が当選したか分かってしまう、という現象のことでございます。」
玄蕃は、聞いていくうちに顔をしかめた。
「むう、票を数える前に、当選が決まるだと? そんな馬鹿なことがあってたまるか。それはつまり、不正を働いておるということではないのか? まさか、現代の選挙というものは、ワシらが昔やっていたような、票のすり替えや買収が当たり前になっておるのか?」
越後屋は、玄蕃の早とちりを察し、慌てて否定した。
「とんでもございません、お代官様。不正とは少し違いまして、これは現代の情報戦と申しますか……。その候補者が、どれほどの地盤を持っているか、これまでの活動がどれほど評価されているか、そして、どれほどの票を集める見込みがあるか、ということを、事前に徹底的に調べて予測するのでございます。」
「予測だと? そんな曖昧なもので、当選確実などと断言できるものか?」
玄蕃は、いまだ納得がいかない様子である。
「へえ。例えば、ある候補者が、特定の地域で絶大な支持を得ており、その地域のほとんどの者がその候補者に投票すると見込まれる場合。あるいは、これまでの選挙で常に大差で当選してきた候補者であれば、開票を待たずとも当選は確実であると判断できるのでございます。」
越後屋は、さらに言葉を重ねた。
「これは、現代の世において、情報を制する者が全てを制す、という考え方に基づいております。様々な調査機関が、有権者の動向を細かく分析し、投票日当日には、既に当選者を予測できるほどの精度を持つのでございます。」
玄蕃は腕を組み、難しい顔をしている。
「むう、つまり、票が集まる前から、その者の力がどれほどのものか、測れるということか。それは、ワシらの時代で言うところの、家柄や禄高、そしてどれだけの配下を抱えているか、といったことを見極めるのと似ておるな。」
「お代官様の仰せの通りでございます。現代の世においては、それがさらに精緻になり、数字として明確に表れるようになった、とご理解いただければと存じます。」
越後屋は、玄蕃の理解を得られたことに安堵したようであった。
「して、その『8時当確』と申すのは、何のことじゃ?」
玄蕃は、新たな疑問を口にした。
「へえ、お代官様。それは、投票締め切り時刻が午後8時であることに由来いたします。投票が締め切られた直後、つまり開票率がまだ0%の段階で、主要な報道機関が『この候補者は当選確実である』と報じることから、そのように呼ばれるのでございます。」
「投票が締め切られた途端に、当選確実だと? まこと、現代はせっかちじゃのう。ワシらの時代ならば、票を数えるのに何日もかかったものじゃ。」
玄蕃は、時代の変化に驚きを隠せない様子であった。
「へえ、まことに。現代は、情報伝達の速さが求められる時代でございます。ゆえに、どの報道機関が一番早く正確な情報を伝えるか、という競争も激しく、それがこの『8時当確』という現象を生み出したのでございます。」
越後屋は、淀みなく説明した。
玄蕃は顎を撫でながら、しばらく黙考した。そして、やがて顔を上げた時、その目には新たな企みが宿っていた。
「越後屋、その『開票率0%で当選確実』とやら、ワシらにとって、何か利用できることはないか?」
越後屋は、待ってましたとばかりに、さらに声を潜めた。
「お代官様、まことにございます。この現象は、我々にとって、まさに金の成る木となり得ます。」
「ほう? どういうことじゃ?」
玄蕃は身を乗り出した。
「へえ。例えば、我々が特定の候補者を支援する際、この『8時当確』という現象を逆手に取ることができます。事前にその候補者が当選確実であるという情報を流布させることで、有権者に『この候補者はもう勝っているのだから、わざわざ投票しなくても良い』と思わせる、あるいは『勝馬に乗るべきだ』と思わせる、というような誘導ができるやもしれません。」
越後屋は、悪知恵を働かせながら説明した。
「つまり、情報操作を行うということか。それは面白い。しかし、それだけでは、ワシらの懐が潤うことはないのではないか?」
玄蕃は、あくまで金儲けにしか興味がない。
「へえ、お代官様、ご安心くださいませ。例えば、この『8時当確』が出そうな候補者に、我々が事前に巨額の献金をしておくのでございます。当選が確実な者への投資は、リスクが少なく、見返りが大きい。」
越後屋は、さらに続けた。
「あるいは、当選確実の候補者に、我々が有利になるような政策を約束させることもできましょう。例えば、私どもの商売に有利な法案を通してもらったり、競争相手に不利な規制を設けさせたり、といったことでございます。」
玄蕃の目が、ギラリと光った。
「ほう、それは見事な考えじゃな。つまり、事前に『勝者』を見極め、そこに投資をするというわけか。」
「まことにその通りでございます。現代の世は、情報戦でございます。どの候補者が『8時当確』を出すか、その情報をいち早く掴み、先手を打つことが肝要でございます。」
越後屋は、自信満々に言い放った。
「しかし、その『8時当確』の情報を、どのようにして手に入れるのだ? まさか、その調査機関とやらと、裏で手を組むというわけではあるまいな?」
玄蕃は、用心深く尋ねた。
「へえ、お代官様。それはもちろん、我々が独自に調査することも可能でございます。あるいは、その調査機関の者どもに、金を握らせて情報を引き出すこともできましょう。何事も、金次第でございますからな。」
越後屋は、悪びれる様子もなく答えた。
玄蕃は、ふう、と大きなため息をついた。
「世も末じゃな。選挙というものが、このような情報戦となっておるとは。しかし、ワシらの悪事を働く上では、まことに都合が良い。」
玄蕃は、にやりと笑った。
「越後屋、その『開票率0%で当選確実』とやら、もっと詳しく調べてみよ。もし、それがワシらの私腹を肥やす手立てとなるのならば、利用せぬ手はない。」
「へえ、かしこまりました、お代官様。さっそく手下の者たちに命じ、詳細を探らせます。」
越後屋は、深々と頭を下げた。彼の心の中では、すでに『8時当確』を巡る新たな悪だくみの計画が練られ始めていた。
数日後、越後屋は再び玄蕃の屋敷を訪れた。彼は、前回よりもさらに詳細な情報を携えていた。
「お代官様、『開票率0%で当選確実』について、詳しく調べてまいりました。」
越後屋は、懐から数枚の紙を取り出した。そこには、何やら難しそうな言葉が書き連ねてある。
「ほう、手際が良いな、越後屋。して、何か面白いことはあったか?」
玄蕃は、上機嫌で問うた。越後屋は、得意げに話し始めた。
「へえ、お代官様。この『8時当確』を出すには、綿密な出口調査と事前調査が不可欠だそうでございます。」
「出口調査? 事前調査? それはまた、何のことじゃ?」
玄蕃は、聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「へえ。まず事前調査でございますが、これは選挙期間中から、どの候補者がどれほどの支持を集めているか、有権者が何を重視しているかなどを、様々な方法で探るものでございます。現代では、電話での聞き取り調査や、世論調査といったものが主流だそうで。」
越後屋は、まるで秘密の裏話を披露するかのように、声を潜めて説明した。
「なるほど、つまり、事前に有権者の心の内を探るというわけか。それは、ワシらが裏で金をばら撒いて、有権者の動向を探るのと似ておるな。」
玄蕃は、自身の悪行と照らし合わせながら、理解を示した。
「まことにその通りでございます。そして、出口調査でございますが、これは投票が締め切られる直前、投票所から出てきたばかりの有権者に直接、誰に投票したかを尋ねるものでございます。これにより、実際の投票行動をリアルタイムで把握し、より正確な当選予測を立てることができるのでございます。」
「ふむ、投票を終えたばかりの者に、誰に投票したか尋ねるか。まこと、抜け目のないことじゃのう。しかし、嘘を申す者もいるのではないか?」
玄蕃は、疑いの目を向けた。
「へえ、もちろん、その可能性もございます。しかし、統計学という現代の術を用いれば、ある程度の誤差は吸収できるそうでございます。また、膨大な数の有権者から情報を集めることで、より正確な予測が可能となる、と申しておりました。」
越後屋は、玄蕃の疑問に丁寧に答えた。
「統計学か。また、難しそうな言葉を申すな。しかし、そのようにして、開票を待たずに当選確実を出せる、というわけか。」
玄蕃は、感心したように頷いた。
「へえ、お代官様のおっしゃる通りでございます。これらの調査を組み合わせることで、午後8時の投票締め切り直後には、ほぼ間違いなく当選者を予測できる、という仕組みでございます。」
越後屋は、一通りの説明を終えると、再び身を乗り出した。
「お代官様、この仕組みは、我々にとってまことに利用価値が高いと存じます。」
「ほう、どういうことじゃ?」
玄蕃は、越後屋の言葉に期待を込めた。
「へえ。例えば、我々が支援したい候補者が、事前調査や出口調査の結果、当選が危ういと判断された場合。この『8時当確』の仕組みを逆手に取り、あえて『当確』が出にくいという情報を流布させるのでございます。」
越後屋は、悪知恵を働かせて説明した。
「なに? それは馬鹿な。わざわざ不利な情報を流すなど、何の得があるというのだ?」
玄蕃は、越後屋の言葉に眉をひそめた。
「へえ、お代官様、ご安心くださいませ。ここからが我々の手腕でございます。あえて不利な情報を流すことで、その候補者の支持者たちに危機感を煽り、『このままでは当選できない』と思わせるのです。そうすれば、支持者たちはこぞって投票に駆けつけ、さらに知人友人に声をかけるなど、積極的に支援を行うようになるでしょう。」
越後屋は、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。
「つまり、劣勢を装って、支持者を焚きつけるというわけか。それは面白い。人間の心理を巧みに操る手口じゃな。」
玄蕃は、感心したように言った。
「まことにその通りでございます。そして、選挙戦の終盤に、我々が温存しておいた票をまとめて投じるのでございます。そうすれば、最後に大逆転勝利を収め、その候補者には我々への恩義が生まれる、という寸法でございます。」
越後屋は、得意げに胸を張った。
「ほう、それは見事な策じゃな。まるで、戦の兵法を見ているようじゃ。劣勢を装い、敵を油断させ、最後に一気に攻め立てる、というわけか。」
玄蕃は、心底感心したように言った。
「へえ、お代官様のおっしゃる通りでございます。この『8時当確』の仕組みは、情報戦であると同時に、心理戦でもございます。」
「よかろう、越後屋。その策、試してみる価値はあるな。だが、もし失敗すれば、そちの首が飛ぶぞ。」
玄蕃は、冷徹な目を越後屋に向けた。
「へえ、ご安心くださいませ、お代官様。この越後屋宗右衛門、必ずやお代官様のご期待に応えてみせます。」
越後屋は、深々と頭を下げた。彼の心の中では、すでにこの悪だくみを成功させるための具体的な計画が動き始めていた。
「しかし、お代官様。もう一つ、この『8時当確』を逆手に取った、別の儲け話もございます。」
越後屋は、さらに声を潜めた。
「ほう、まだ何かあるのか? 申してみよ。」
玄蕃は、興味津々といった様子で身を乗り出した。
「へえ。それは選挙に立候補する者たちに、事前に『8時当確』を出すための情報を提供することで、高額な報酬を得るというものでございます。」
「なに? 情報を提供するだと? それはつまり、ワシらがその調査機関とやらと手を組むということか?」
玄蕃は、少し驚いたように言った。
「へえ。正確には、我々がその調査機関を裏で操る、と申しますか。あるいは、我々自身がそのような調査機関を立ち上げることも可能でございましょう。そして、特定の候補者に、我々が提供する『8時当確』のための情報を利用させ、当選に導くのでございます。」
越後屋は、さらに大胆な提案をした。
「例えば、当選が危うい候補者に対し、『我々が持つ情報を使えば、『8時当確』を出させることも夢ではない』と持ちかけるのでございます。そして、その情報を提供する代わりに、巨額の報酬を要求する。」
玄蕃は、その提案に目を丸くした。
「それは、まこと大胆な悪事じゃな。しかし、それが成功すれば、莫大な金が手に入ることは間違いない。」
「まことにその通りでございます。現代の選挙は、金がかかるものでございますゆえ、候補者たちは喉から手が出るほど『当選確実』の情報を欲しがるでしょう。そこに付け入る隙がございます。」
越後屋は、ニヤリと笑った。
玄蕃は、しばらく黙考した後、大きく頷いた。
「よかろう、越後屋。その二つの策、両方とも試してみよ。ただし、くれぐれも足元をすくわれることのないよう、細心の注意を払え。ワシらは、あくまで日陰の存在。表沙汰になっては困るからな。」
「へえ、かしこまりました、お代官様。この越後屋宗右衛門、お代官様のために、粉骨砕身いたす所存でございます。」
越後屋は、深々と頭を下げた。二人の悪党の間に、新たな悪だくみの兆しが芽生え始めていた。それは、現代社会の選挙という仕組みを、彼らなりの解釈で利用しようとする、恐るべき企みであった。
この悪だくみが始まってから、半年が経った。越後屋は、玄蕃の指示通り、二つの策を着々と実行に移していた。
一つ目の策、つまり劣勢を装って支持者を煽り、終盤で票を投じることで、特定の候補者を当選させるという目論見は、驚くべき成功を収めた。
「お代官様、先日の選挙、見事に成功いたしました!」
越後屋は、興奮した様子で玄蕃に報告した。彼の顔は、喜びで紅潮している。
「ほう、見事であったな、越後屋。あの候補者が『8時当確』を出した時には、ワシも舌を巻いたぞ。」
玄蕃は、満足げに煙管をくゆらせた。彼の懐は、その候補者から送られた多額の献金で、これまでになく膨れ上がっていた。
「へえ。終盤の巻き返しには、支持者たちも大いに盛り上がったようでございます。まさか、あの候補者が当選するとは、誰も予想しておりませんでしたゆえ。」
越後屋は、その手腕を自画自賛するかのように語った。
「よかろう。それにしても、人間というものは、まこと面白いものじゃな。劣勢を伝えれば、逆に奮起するとは。この心理を操る術は、悪事を働く上でまことに有用じゃ。」
玄蕃は、にやりと笑った。
しかし、二つ目の策、つまり『8時当確』のための情報を提供することで報酬を得るという目論見は、越後屋にとって思わぬ葛藤を生んでいた。
「お代官様、もう一つの策でございますが……」
越後屋は、少し言い淀んだ。
「どうした、越後屋。何か問題でもあったか?」
玄蕃は、越後屋の様子に気づき、尋ねた。
「へえ。わたくしどもが、ある候補者に『8時当確』を出すための情報を提供する代わりとして、多額の報酬を要求したところ、その候補者は大変苦しんでおりました。」
越後屋は、どこか複雑な表情で語った。
「苦しむだと? そんなことは知ったことではない。金さえ手に入ればそれで良い。」
玄蕃は、冷徹な声で言い放った。
「へえ、まことにその通りでございます。しかし、その候補者は、まことに志の高い人物で、金のために悪事に手を染めることを良しとしませんでした。」
越後屋は、玄蕃の言葉を遮ってまで、その候補者のことを語った。
「その候補者は、わたくしどもに『もし、不正に手に入れた金で当選したとしても、それは真の勝利ではない』と申しました。そして、潔く、報酬の支払いを拒否したのでございます。」
越後屋の言葉に、玄蕃は眉をひそめた。
「馬鹿な。この世は金と力こそが全て。そのような綺麗事を申す者など、まこと珍しい。」
「へえ、まことに。わたくしも、このような世に、そのような志の高い者がいるとは思いもしませんでした。そして、その候補者は、わたくしどもの情報を用いることなく、自身の力と、有権者の信頼だけで、見事に当選を果たしたのでございます。」
越後屋は、どこか感動したかのように語った。
玄蕃は、その話を聞き、しばらく黙り込んだ。彼の悪徳の心にも、わずかながら、その候補者の潔さが響いたようであった。
「ふむ……。つまり、その『8時当確』の情報がなくとも、真の力があれば当選できる、というわけか。」
玄蕃は、静かに呟いた。
「へえ、お代官様の仰せの通りでございます。そして、その候補者の当選は、この町の者どもにも、大いに歓迎されております。不正を嫌い、清廉潔白な政治を行うと、町中で評判でございます。」
越後屋は、さらに続けた。
玄蕃は、ふう、と大きなため息をついた。
「世の中というものは、まことに分からぬものじゃな。ワシらが悪事を働くほど、逆に善き者が現れるとは。しかし、それもまた、この世の常なのかもしれぬな。」
玄蕃は、どこか遠くを見つめるような目をしていた。彼の悪徳の心にも、微かながら、善の光が差し込んだようであった。
「越後屋、その『8時当確』とやら、まこと奥が深いな。人の心と世の中の仕組みを巧みに利用する術ではあるが、真の力の前には、そのような小細工は通用せぬということか。」
玄蕃の言葉に、越後屋は静かに頷いた。
「へえ、お代官様の仰せの通りでございます。しかし、悪事もまた、世の中の均衡を保つために必要なものなのかもしれませんな。」
越後屋は、皮肉めいた笑みを浮かべた。彼の心の中には、善と悪、そして金儲けの欲が、複雑に絡み合っていた。
玄蕃は、再び煙管をくゆらせた。煙がゆらゆらと宙に舞い上がり、部屋の中に広がる。
「越後屋、この世は、常に変化し、常に新たなものが生まれる。ワシらは、その変化の波に乗り、いかにして生き残っていくかを考えねばならぬな。」
「へえ、お代官様。この越後屋宗右衛門、お代官様のためならば、どんな苦難も乗り越えてみせまする。」
越後屋は、深々と頭を下げた。
悪代官と越後屋の物語は、現代の「開票率0%で当選確実=8時当確」という現象を通して、彼ら自身の悪徳の形を変化させながら、そして微かな人間性を育みながら、新たな時代へと、ゆっくりと歩みを進めていくのであった。
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